「帰省したら、母親がますますボケていたんだ。」

彼は、悲しくつらいだろうに淡々と話し始めた。

「内緒の話をボクにしたんだ。
『あのへんなおじさんにひどいことをされている』
『さっきもう一人の男の人と、家を壊す話をしていた』」

へんなおじさん=彼のお父さん=彼女の夫
もう一人の男の人=彼=彼女が内緒話をした相手は
彼女にとって誰だか不明。

「アルツは妄想がはいるらしいよ。」

「ボクは予想するよ。これからは、徘徊は減るよ。」
『どうして?』
「彼女はヒザさえ悪くなければ、毎日逃げ出しているだろう。
それは彼女がずっと抑圧された状態で生きてきたということなんだろうな。
彼女は今は独身で、なぜへんなおじさんと一緒にいるのかわからないのだ。
でも、今は理性が少しは残っているので父との会話をどうやり過ごすかだけは
覚えている。だから相槌もうまい。でも正常ではないんだよ。」

「そのくらいストレスを毎日何十年も感じていたのだろうな。
たぶん、ふたつ星のお母さんがボケてもこうはならないよ。」
『たしかにうちの母は外に行こうとはしないと思う。でも、
心は個人の問題だから、私には予想もつかないよ。
たとえば高校時代に戻りたいなんて思っていたら、北海道から
本州まで歩こうとしてしまうのだろうね。』

離婚が簡単にできなかった時代の人だったから、楽しかったころに、強く
足を向けさせるのかもしれない。
どんなにストレスがない人間でも、たぶん自分がムスメムスコだった頃に
もどりたいものなのかもしれない。
それは人生で一番わたがしにくるまれていた時期でもあり、
トシとともにそのころのつらさをなんとも感じなくなった結果でもある。

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